今日読み終えた本

太陽と戦慄 (ミステリ・フロンティア)

太陽と戦慄 (ミステリ・フロンティア)

ミステリー出版の老舗、東京創元社の新進作家たちによる書き下ろし本格ミステリーシリーズ<ミステリ・フロンティア>の一作。
ストリートキッズたちが主人公。十代の彼らは人類終末破壊思想を持つ導師と名乗る泉水の<使徒>となるべく、彼の家で共同生活をしてロックバンドを結成し練習に励む。彼の思想に影響を受け、洗脳され、ロックで世間にその思想を訴えようとした初ライブの最中に、密室状態で導師が殺される。
そして10年後、導師の遺志を継ぐ何者かが、かつて導師がバンドのために作った歌詞そのままに、その危険思想の<使命>を果たすように大規模な爆破事件を次々に起こす。
バンドのメンバーだった“リトル”は、歌詞に隠された干支の動物、十二支方位などからなるその<使命>の謎に肉薄する・・・・。
本格謎解きパズラーらしい密室の構築、巧みな伏線と意外な真犯人、そして終末破壊思想という荒唐無稽な犯罪の動機。<ミステリ・フロンティア>に参画した著者の本格シリーズにふさわしいチャレンジングな姿勢がうかがえる作品である。
著者鳥飼否宇は’01年、『中空』で「第21回横溝正史ミステリ大賞」優秀賞を受賞してデビュー。『中空』は、世帯数わずか7軒の閉鎖された村、繰り返される二十年前の惨劇、どんでんがえし。荘子の思想に従い暮らす竹林の村で起こった奇怪な連続殺人事件。大人の御伽噺ともいえる本格謎解きパズラーだった。
続く『非在』も同様な、人魚、朱雀、仙人、不老不死伝説……絶海の孤島で起こる伝承連続殺人パズラー。
著者は中国思想や生物学(特に昆虫の分野)に博学な作家である。本書にもその片鱗がうかがえる。