今日読み終えた本

沈むさかな

沈むさかな

’02年「第1回『このミステリーがすごい!』大賞」優秀賞受賞作。このときの大賞は文庫化されてからベストセラーになった浅倉卓弥の『四日間の奇蹟』。選評によれば、本書は『四日間・・』がいなければ大賞が獲れたのではないかとのこと。
本書は「きみは・・・」で語られる独創的な二人称記述の小説である。
父の急死の真相を探るため、主人公17才の高校生カズは幼馴染の勧めでスクーバダイビングを始めながら海辺のクラブに潜り込む。だが糸口が見えないままにダイバーの変死事件が起こり、中絶斡旋の噂、製薬会社の暗躍、ヒト再生研究など次々に、米軍横須賀基地まで巻き込む組織的かつ巨大な疑惑が浮上する。
前半は歩むべき道を模索する孤独な若者カズのあくまでも静謐な語り口の青春物語。ダイビングの描写も臨場感があってすがすがしい。
後半に入ると事件や謀略的疑惑が沸き起こり、大掛かりなミステリー趣向が駆使される。その過程では迫真の海中活劇も繰り広げられる。さまざまなことにもまれながら「きみ」ことカズも成長してゆく。最後には意外などんでん返しも用意されている。
夏の湘南を舞台にダイビングの魅力と謎解きが融合した清冽で端正なイメージの青春ミステリーである。