今日読み終えた本

パワー・オフ

パワー・オフ

著者は徳山諄一と合作作家“岡嶋二人”を結成し、’82年『焦茶色のパステル』で「第28回江戸川乱歩賞」を受賞。この日記でも取り上げた『99%の誘拐』や「日本推理作家協会賞」を受賞した『チョコレートゲーム』など多数の作品を発表。’89年に傑作『クラインの壺』を最後にコンビを解消し、その後井上夢人として独立して話題作を発表している。
本書はコンピュータ・ウイルスをテーマにしたサイバー・サスペンスで、『99%の誘拐』でも重要な役割を果たしたパソコンの世界をモチーフにした物語である。
井上氏はコンピュータやゲームなどサイバー空間を扱うのが得意のようで、“岡嶋二人”時代のさまざまな作品の中でもこの分野を受け持ったようだ。
高校の実習の授業中、コンピュータ制御されたドリルの刃が生徒の掌を貫いた。モニター画面には、「おきのどくさま…」というメッセージが表示されていた。やがて第2、第3の新型のコンピュータ・ウイルスが発生し、増殖を続け、世界中を大混乱に陥れる。この新型ウィルスをめぐって、プログラマ、人工生命研究者、パソコン通信の事務局スタッフなど、さまざまな人びとが動き始める。
本書は初出が月刊誌「小説すばる」の’94年8月号から翌年10月号までの連載だというから10年以上前の作品である。書かれた当時より現在はテクノロジーがすごく進歩しているわけだが、物語の根本部分はまったく古さを感じさせなくて、新型ウイルスが人工生命の形態を持って、進化・増殖するところなど、サイバー・ホラーの要素も感じられ、近未来に起ころうとしている事件のような新鮮さがあった。