今日読み終えた本

6ステイン

6ステイン

今年は福井晴敏の当たり年で、『終戦のローレライ』、『戦国自衛隊1549』、『亡国のイージス』と彼の原作・原案の作品が3つも映画化された。
本書は、重厚長大な大作(長〜い作品)を書くというイメージの強い著者の初めての短編集である。直木賞の候補にもなった本書だが、6編のうち5編は’98年から’00年に月刊小説誌に初出された比較的前の作品だ。
いずれも存在を秘匿された組織、通称“市ケ谷”と呼ばれる防衛庁情報局の正局員や非常勤の警補官(AP)、つまり秘密工作員たちの活動を描いている。
ふだんは別の仕事を持っていたり、普通の主婦だったりする男たち、女たちがひとたび本部からの「指令」があれば、一転、命のやり取りすら当たり前の過酷な「任務」に身を投じる。彼ら、彼女らがそんな「仕事」をしているとは世間ではまったく知られない。しかも思いのほか報酬は少ない。
なんでもない日常を描くような書き出しから、急にハードボイルドで非日常的なまったく別の世界が展開する。最初の1,2編は違和感すら感じたが、読み進んでいって、特におしまいの2編、「断ち切る」と「920を待ちながら」は短編というより中編位の長さの佳作で、福井節といってもいい独特の言い回しの文章はそれ自体、重々しく存在感があり、次第に物語に引き込まれていった。