今日読み終えた本

グリズリー

グリズリー

壮大なスケールで国際冒険・謀略小説を構築する作家、笹本稜平のハードカバー2段組み447ページの大作。
彼の作品を読むのは、これまた上・下分冊の大作だった『太平洋の薔薇』(10月21日付当日記記録)以来で、6作品目だが『フォックス・ストーン』ほど重々しくなかったが、『天空の回廊』や『太平洋の・・・』ほどスケールが壮大でもなかった。
「核」を背景に世界を支配するいまや唯一の超大国アメリカの世界戦略に対して、単身で戦いを挑む孤高のテロリスト“グリズリー”こと折井、その行動を描いた作品である。
彼を追う公安の刑事、5年前のある事件から彼との因縁浅からぬ元北海道警SAT狙撃班隊員、日本留学中のアメリカ副大統領の姪らが“グリズリー”にかかわり、まるで映画を観ているようなドラマが展開する。
極限の知床での壮絶な闘いや相模湾沖でのCIA工作員との死闘など、“グリズリー”は理想的な世界を実現するという自分の理念実現のため、何十人もの命を奪ってゆくが、フィクションとして読んでいる分にはおぞましさや血腥さは感じなかった。
ひとつには“グリズリー”のアメリカ大統領へのテロの最終的な手段が暴力行為ではなく、インターネットを利用した知的なものだったこと。もうひとつは副大統領の姪・フィービとの心のふれあいが殺伐としたこの物語の中での緩衝材になっていたことだと思う。
本書は国際冒険謀略小説の一種には違いないだろうが、私は登場人物たちからむしろ「男のロマン」みたいなものを感じた。