今日読み終えた本

以前(6月17日付「読書記録」・『黙の部屋』)にも書いたが、私は「叙述ミステリー」の第一人者、「語りの魔術師」折原一の大ファンである。本書は彼の41作目に当たる最新作である。これまでの全作品を読破しているファンとしては一年に1、2作のペースでしか発表しないこの寡作作家の新作を見逃すことはできず、早速読んだ。
本書は、決行当日まで見知らぬ他人同士がワゴン車で練炭を使って一緒に自殺する「ネット集団自殺」という、まさに今日的テーマを扱って、さらにひとひねりもふたひねりもした趣向になっている。
叔父が巻き込まれた集団自殺事件を捜査する「僕」の“現在”の視点と、自殺志願者を取材するルポライター「私」の“過去”の視点が、そしてブロック体と楷書体の二つの異なったフォント書体で綴られる物語が、短い章立てで、激しく交錯する。
物語の終盤では、ネットで知り合った男女が集合し、1台の車に同乗して、淡々と死の場所へ向かう姿が、分刻みで描かれ、そのスピード感・緊迫感に圧倒される。
最後は驚愕の結末に向かって一気に収束する。そして読者は、この物語には、表紙の絵、サブタイトルの『叔父殺人事件』から始まって、本文のはじめから巧妙な伏線が、いたるところに読者の間隙を突いて張り巡らされていたことをあらためて知るのである。
まさに「折原マジック」ともいわれる著者独特の凝った仕掛けが全編にわたってほどこされた、折原ファンには応えられない逸品であった。