今日読み終えた本

あきらめのよい相談者 (創元推理文庫)

あきらめのよい相談者 (創元推理文庫)

本書は、’94年「第1回創元推理短編賞(現・「『ミステリーズ!』新人賞」)を受賞した『あきらめのよい相談者』をはじめ、4編の短編からなる作品集である。
いずれも弁護士・剣持鷹士がイソ弁する事務所にやってくる一見普通だがなんとなく変なクライアントが持ち込む妙な事件を、悩める剣持弁護士が親友・女王光輝(めのうみつてる)に相談すると、コーキこと光輝が、剣持の話したことだけを手がかりに、事件の驚くべき真相をたちどころに解き明かす、と言う趣向だ。
典型的な“日常の謎”派---弁護士事務所に持ってくる相談なので、法律が絡んだ非日常的なものかと思いきや、それらはなんとも奇妙に“日常の謎”なのである。---と“安楽椅子探偵(アームチェアーディテクティブ)”の融合とも言うべきミステリーである。この日記で以前取り上げた(9月10日付『読書記録』)倉知淳の『猫丸先輩』シリーズと同じ系譜に属すると言っていいだろう。
ただし、著者が現役の弁護士であることから、それぞれの事件に関する観察、推理は緻密で論理的で、かつ客観的である。
特に4編目の『あきらめの悪い相談者』は‘犯人’がわかっていて、逆に‘被害者’を、限られた候補から限られた断片的情報のみで言い当てるという、奇抜な発想ときわめて論理的な解決を併せ持つ、傑作短編ミステリーであった。

ちなみに著者は倉知淳同様、作家デビューの前に’93年、高橋謙一という筆名(本名?)で応募した、若竹七海主催の今は伝説の奇書、『競作・五十円玉二十枚の謎』の「解答編<一般公募の部>」で「最優秀賞」を受賞している。