今日読み終えた本

パンドラの火花

パンドラの火花

時は2040年、死刑囚が“時空移動システム”で35年前に戻り、「凶悪事件を犯す直前の自分自身を説得し、犯行を阻止せよ」、「期限は72時間。成功すれば釈放、失敗なら死」と命じられる。
本書は3人の死刑囚が、名前がなく17番とか18番とか番号で呼ばれる“時空監視官”と共に、過去の自分自身と対峙する物語がオムニバス風に描かれている。
まるでTVシリーズタモリの「世にも奇妙な物語」のような奇想サスペンスである。
着想が奇抜である上に、老境に入った死刑囚たちが35年前の若き日の自分自身に対して、戸惑いながらもこれまでの経験を生かして真摯に説得する姿はなかなか迫真である。
説得される側も、いきなり未来の自分が現れて、わけの分からないことを諭され、面食らう姿も興味深い。
また3つのうちの1つのケースは逆に未来の自分が訪れる25歳時の若者の視点から描かれるなど変化をつけ、工夫もうかがえる。
しかし全体的にみて、小さくまとまってしまっている感は否めない。 
黒武洋は’00年、『そして粛清の扉を』で「第1回ホラーサスペンス大賞」を受賞して劇的なデビューを飾った。それは、ある高校の女性教師がクラスの生徒を教室に監禁して、現在進行形でほぼ全員を次々に殺害してゆくという『バトルロワイヤル』を超えるほどの衝撃作だった。
『そして粛清の・・・』の印象が強すぎて、私には後続の作品が物足りなく感じてしまう。
あれほどのものは望むべくもないかもしれないが、著者にはあのようなインパクトのある作品をどうしても求めてしまう。