今日読み終えた本

魔術王事件 (講談社ノベルス)

魔術王事件 (講談社ノベルス)

私は学生のころ、『吸血鬼』、『魔術師』、『蜘蛛男』、『人間豹』など江戸川乱歩の諸作品を耽読したものだ。それらは『少年探偵団』や『怪人二十面相』などの少年少女シリーズからグレードアップした一般向けの物語で、自らのおぞましい欲望や復讐に取り付かれ、跳梁跋扈する稀代の大犯罪者たちに明智小五郎が敢然と立ち向かうという荒唐無稽の冒険譚だった。以前、それらを原作に、故天池茂が明智探偵に扮したTVの2時間ドラマ「・・・の美女」シリーズとして放映されたのでご存知の方も多いだろう。
本書はこの、いわゆる「通俗スリラー」と呼ばれる系譜の物語である。著者はこの流れを汲む作品を、時期を昭和40年代にして、名探偵・二階堂蘭子対怪人という設定で、『地獄の奇術師』、『悪霊の館』、『悪魔のラビリンス』など数多く書いている。
本書のストーリーは、「函館の名家・宝生家に伝わる呪われた家宝。この妖美な宝石の略奪を目論む、神出鬼没の怪人・魔術王。次々と不可解に届く「犯行予告状」、「脅迫状」。二階堂蘭子が、偽りの黄金仮面に隠された真犯人に挑む!」というものである。
乱歩の諸作品を彷彿とさせる、残虐非道な殺人鬼・魔術王の不可能犯罪の連続に翻弄される警察。真犯人の巧緻を極めたトリックと驚愕の殺人動機の真相に迫る蘭子。血湧き肉躍る「通俗スリラー」ならではの息もつかせぬ展開に読者は圧倒される。
あまりにも多くの殺人が常軌を逸しておこなわれ、その凄惨さには目を覆いたくなるほどであるが、物語は「蒙古や江戸幕府埋蔵金」、「太平洋戦争時の秘密計画」などもからんで、「これでもか!」というくらいにスリラーの道具立てやギミックを詰め込んで、ノベルス版にして778ページ、まるで弁当箱のような超大作を創り上げる著者の手腕はさすがとしか言いようがない。