今日読み終えた本

百番目の男 (文春文庫)

百番目の男 (文春文庫)

このミステリーがすごい!」の’05年海外編で同点第6位、「週刊文春ミステリーベスト10」でも’05年海外部門で第6位にランクインしたサイコ・サスペンス。
本書の一番のポイントは、訳者があとがきで「どうです、驚いたでしょう?」と言っているように、頭部を切断した死体に刻み込まれた奇妙な文字に隠された真犯人の、一歩間違えれば“バカミス”になりかねないゆがんだ意図と、殺人を犯すにいたったインパクトのある異常な動機である。
アブノーマルな犯罪に挑むのは、モビール市警察本部<精神病理・社会病理捜査班(PSIT・ピスイット)>の若き捜査官、カーソン・ライダー。捜査は、彼のこころを病んだ兄やPSITをよく思わない市警察内部の邪魔を絡ませながら進展してゆく。
扇情的な犯罪を題材に扱っているはいるが、物語全体からはそれほど陰惨なイメージは感じられない。むしろ、みずみずしく、スピーディーで若々しいものを感じる。
それは、この犯罪のあきれるほどに常軌を逸した動機や、カーソンと相棒のハリー刑事とのアメリカンジョークにあふれた軽妙で洒脱なやり取り、新任女性検屍官をアル中から更生させようとするカーソンの心遣いや、舞台となっているメキシコ湾に面したアラバマ州モビールの大都会とは一味違う独特の南国の風土、そしてなによりもこの物語が青年捜査官カーソンの‘僕’という若々しい一人称の語りで綴られているところから来るのだろう。