今日読み終えた本

斧 (文春文庫)

斧 (文春文庫)

このミステリーがすごい!」の’01年海外編で第4位ランクインの異色作。
製紙会社をリストラされた元中間管理職の‘わたし’は51才。もう2年間も失業中で、節約・倹約は当たり前、パートで勤め始めた妻に浮気をされたり、18才の息子は窃盗で逮捕されたり、家庭生活も崩壊寸前。彼の再就職への渇望はついに狂気となって彼を追い込む。
彼は製紙業の月刊業界誌にニセの求人広告を3号続けて出し、応募者の履歴書の中から自分と同等か、それ以上の能力・スキル・ノウハウを持ち、同じエリアで、同じ職種・ポストへの再就職を望む者を6人チョイスする。そして、あろうことか、彼らがいては自分が再就職する際の障害となるという理由で、次々と殺してまわるのだ。彼の殺人は再就職のためのポストを無理やり空けるため、ついに現職の同業・同職種の人物にまで及ぶ。
彼の連続殺人行為が‘わたし’という一人称で、日記風に実に淡々と、生活の一部のように語られているあたりは、まさに狂気と呼ぶにふさわしいほど異常であるし、読んでいてもシリアスを通り越して、ブラックな肌寒さをおぼえる。
本書は、平凡な現代人の奥に潜む狂気と、それが表に出たときの強烈な暴力をあぶりだした物語である。
と同時に、不況・リストラ・困難な再就職(特に中高年の中間管理職層)といった現代の経済状況・雇用事情を痛烈に風刺した小説でもある。いつ誰の身に降りかかってもおかしくない現実がそこにある。私も他人事とは思えず、それだけにいっそう怖いものを感じた。