今日読み終えた本

噂 (新潮文庫)

噂 (新潮文庫)

無名ブランドから発売される香水「ミリエル」。その宣伝戦略として企画会社のやり手の美人社長が使ったのは、少女たちによる“口コミ”だった。
「真夜中の渋谷には女の子を殺して足首を切断する殺人鬼‘レインマン’が現われる。でもミリエルの香水をつけている子は狙われない・・・。」
宣伝のために流したこの「噂」が、やがて現実の連続殺人事件となる。
切断された足首。残された毛髪と足跡。額に記された「R」状の文字。‘レインマン’の「噂」との関係は?
見えないサイコパスシリアルキラーの姿を求めて、警視庁目黒署の巡査部長・小暮の奮闘が始まる。
本書の謎の中心は、もちろん‘レインマン’の正体は?であるが、読みどころはもうひとつ。中年刑事・小暮の人物造形であり、彼とコンビを組む本庁捜査一課の若い女性警部補・名島とのコンビネーションや、高一の娘・菜摘との日常のやり取りの妙である。捜査の過程で、渋谷の女子高生を代表とする“いまどき”の若者たちにさんざん悩まされる姿も印象深い。
テーマは連続異常快楽殺人なのだが、物語全体からは血なまぐさい陰惨さをそれほど感じない。むしろユーモアさえ醸し出している理由はこの辺りにあるのだろう。
著者は、いまや幅広いジャンルの小説を生み出している作家ではあるが、さすがもともとユーモア小説でデビューして、高い評価を得ただけあって、本書のようなミステリー作品でも物語全体からは独特の「荻原テイスト」が漂っているのである。
とはいえ、終盤の残り50ページを切ったあたりからの、事件が一気に解決に向かうくだりは、息詰るほどの緊迫感で、一気読み必至である。・・・・そして衝撃のラスト1行、いやひと言。最後の最後に著者が仕込んだ驚愕の大仕掛けが炸裂する。