今日読み終えた本

間違いの悲劇 (創元推理文庫)

間違いの悲劇 (創元推理文庫)

本書はエラリー・クイーンの最新長編になるはずだった小説の精細なシノプシス
(梗概)、『間違いの悲劇』と単行本未収録の7つの中・短編からなっている。
「本格パズラー」の巨匠エラリー・クイーンの“最後の事件”となれば、私のような、
少年時代からクイーンの諸作品を読むことで育てられたミステリーファン、なかんずく「本格パズラー」のファンとしては、たとえ梗概でも読まずにはいられない。
『オセロー』をミステリー風に脚色すべく奮闘していたエラリーは、往年の大女優が
ハムレット』の舞台と同じ名で呼ばれる城で怪死したと聞き、シェークスピアの呪縛に苦悩しつつ推理を展開する。
諸般の事情で小説化されなかったのは残念だが、梗概とはいえ、クイーンらしい
「本格のコード」が随所にちりばめられていて、そのテイストを十分味わって読むことができた。
なにしろ’74年邦訳(アメリカでは’71年発表)の長編『心地よく秘密めいた場所』
以来32年。もうクイーンの新作は絶対読めないとあきらめていただけに、この梗概に触れることができて、それだけでもう感動モノである。
また本梗概により、リーとダネイによる合作作家‘エラリー・クイーン’の コンビの秘密を興味深く覗き見ると共に(ダネイが本梗概のような緻密なプロットを考案し、リーがそれを巧みな描写で小説化するといわれている)、リーが作品として完成させる前の、
生(き)のエラリー・クイーンの姿を見ることができた。
併録されているほかの7編もファンにとってはこたえられない“クイーンらしさ”があふれる逸品揃いで、私もクイーンの諸作品を興奮して読んだ若き日々をなつかしく思い出した。