今日読み終えた本

夜の記憶 (文春文庫)

夜の記憶 (文春文庫)

このミステリーがすごい!」’00年海外編第7位にランクインされた、トマス・H・クック『記憶』シリーズ第4弾。
ミステリー作家ポールには、30数年前、両親を交通事故で亡くし、さらにその直後、
最愛の姉を目の前で惨殺されるという悲劇的な過去があった。そのため、彼は、
いまや人と付き合うことも、町に出ることもなく、半ば死んでしまった人のように、その時の恐怖体験をもとに、19世紀のニューヨークを舞台に、殺人鬼ケスラーと、ライバルの刑事を主人公にしたミステリーをタイプし続けるという陰鬱な生活を送っていた。
そんな時、彼の本の愛読者であるニューヨーク郊外のお屋敷の女主人から、想像力を見込まれ、50年前、親友の少女が殺された事件を解決してほしいと依頼される。
ポールは屋敷に赴き、たまたまゲストとして居合わせた女性劇作家の協力を仰いで、当時の捜査官の残した資料を基に、事件の真相に迫ってゆく・・・。
ポールがさまざまな仮説を組み立てて、50年前の事件のベールを一枚ずつはがしてゆくたびに、自分自身の過去の悲劇が、残酷でショッキングな「夜の記憶」のフラッシュバックとなって彼を苦しめる。さらにポールの作品中の殺人鬼ケスラーのシーンまでもが加わる。
現在と過去が入れ代わり、現実と回想と虚構の作品世界が三つ巴となって交錯し、
物語が展開してゆくのは、先日この日記(3月10日付「読書記録」)に記した『記憶』
シリーズ第1弾、エドガー賞受賞作『緋色の記憶』以上に複雑で、ミステリアスである。
50年前の事件の真相自体はあっけないものだったが、そこに至る過程でつぎつぎに明らかになる当時の関係者たちの暗い秘密、終盤で明らかになるポール自身の暗い闇。そしてニューヨークに帰ったポールの結末。読者はほとんど救いのない物語に
心底打ちのめされる。
著者は本書で、あくまでも執拗に、人の心に巣食う闇の部分を抉り出そうとしている。