今日読み終えた本

悪魔の涙 (文春文庫)

悪魔の涙 (文春文庫)

アメリカではミステリーのことをよく‘スリラー’と呼ぶ。日本ではそう言うと‘ホラー’の
イメージになるが、向こうでは文字通り、手に汗握るスリルとサスペンスにあふれた
エンターテインメントというニュアンスである。
’00年「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門第5位、「このミステリーがすごい!」海外編第19位にランクインした本書は、‘スリラー’の傑作であり、
読み出したらやめられないジェットコースター・ノベルである。
著者はデンゼル・ワシントン主演で映画化された『ボーン・コレクター』の原作者で、
‘スリラー’エンターテインメントの第一人者、ジェフリー・ディーヴァーである。
世紀末の大晦日午前9時、ワシントンの地下鉄駅で銃の乱射事件が発生。同時に
市長宛に2千万ドルを要求する脅迫状が届く。正午までに支払わないと、午後4時、
8時、午前0時に無差別の殺人を繰り返すというのだ。捜査に当たるFBIは、唯一の
手掛かりである脅迫状の分析のため、今は第一線から退いている「文書検査士」、
パーカー・キンケイドに出動を要請する。しかし物語の冒頭で脅迫犯が轢き逃げに
遭って死亡してしまう。野放しになった実行犯は、身代金に関わらず当初の指示に
従って、無差別殺人を着実に実行してゆくのか・・・。
たった一通の手書きの脅迫状からキンケイドが科学捜査を駆使して差出人を割り出してゆくプロファイリングの過程は、さすがディーヴァーの作品だけあって目を瞠るほど
精緻で興味を引く。しかも1度ならず、3度も無差別殺人のタイムリミットはすぐそこまで迫っているのだ。そして・・・、いったんは解決したかに見えた事件には、第Ⅳ部で、
さらにもう一押し、ディーヴァーお得意の驚愕の真相が用意されていた。
科学捜査の叡智、各章の冒頭に掲げられた砂時計の進行と共に迫るゼロアワーの
緊迫感、そしてラストの大どんでん返し。文句なしに面白かった。