今日読み終えた本

囮弁護士 上 (文春文庫)

囮弁護士 上 (文春文庫)

囮弁護士 下 (文春文庫)

囮弁護士 下 (文春文庫)

ハリソン・フォード主演で映画化もされた『推定無罪』で華々しく登場した、アメリカの
リーガル・サスペンス界の第一人者、スコット・トゥローの5作目の長編である。
法廷場面は描かれていないが法曹界を揺るがす贈収賄事件がテーマである。
このミステリーがすごい!」では’00年海外編第4位にランクインしている。
ロビーは、事故による人身被害を申し立て、贈賄によって判事から有利な裁定を引き出し、和解により巨額の賠償金を得る、いわば「悪徳系」弁護士だった。
連邦検察官とFBIは、その背景にある民事部主席判事を頂点とした大規模な贈収賄事件を摘発するため、ロビーの贈賄と、更に脱税の証拠を握って、罪を軽くするのと
引き換えに、彼に捜査側の手先、つまり囮になるよう要請する。
かくしてロビーを囮に仕立て、でっちあげの事件を法廷に持ち込んで贈賄の口実を
作ったうえで、最新鋭の機器を駆使して盗聴、盗撮し、証拠をつかもうという大掛かりな作戦が始まる。
前半(上巻)は囮捜査の詳細な手口が、ロビーの弁護士をつとめる人物の一人称で粛々と語られ、やや冗長である。後半(下巻)に入って、ロビー自身の誰にもいえない“秘密”が明らかになったあたりから、最後のFBIによる大捕り物まで、物語はがぜん
勢いがつく。そして、やがて明らかになる意外な事実と悲劇的な結末・・・。
私はエンディングには不完全燃焼のような、何か哀しいものすら感じた。
本書はまた、事件をめぐり揺れ動く人間模様も読みどころである。難病で余命いくばくもない妻に献身的な愛情を注ぐロビーの姿、監視役で送り込まれたFBIの女性捜査官とロビーとの間の感情の微妙な変化など、著者は囮捜査に翻弄される登場人物たちの錯綜した人間ドラマを展開して見せている。
本書は、ただの手に汗握る法廷‘スリラー’エンターテインメントではなく、大きなストーリーの流れ(それはそれでスリリングである)のなかに、いくつもの人間ドラマが挟まれた文学的要素の強い力作である。