今日読み終えた本

wakaba-mark2006-05-19

出口のない海

出口のない海

横山秀夫といえば、今をときめく警察小説の第一人者である。
’98年にミステリー作家としての実質的なデビュー作『陰の季節』で「第5回松本清張賞」を受賞。’00年に『動機』で「第53回日本推理作家協会賞」短編部門賞を受賞、
および「このミステリーがすごい!」国内編第2位にランクイン。
そして’02年『半落ち』が「このミス」国内編で第1位となり大ブレイク。
その後も出す作品はほとんど「このミス」ランキングの常連で、いまや日本のミステリー界をリードする存在である。
そんな著者が、ミステリー作家として世に出る以前に、本書の元になる作品を書いて
いた。’96年発表の『出口のない海---人間魚雷回天特攻作戦の悲劇』(写真右上)
である。この本は作画を『語り継がれる戦争の記憶』などのコミックを描いた三枝義浩が担当したマガジン・ノベルス・ドキュメントと呼ばれるコミックスだったようである。
本書はその全面改稿版だそうだ。
甲子園の優勝投手、並木浩二は、大学入学後、ヒジの故障を克服すべく、<魔球>
の完成にすべてをかけていた。しかし、時代は並木の夢を、大きな黒いうねりの中にのみこんで、翻弄する・・・。太平洋戦争が始まったのだ。戦局の悪化による「学徒出陣」で海軍に入り、やがて “回天”特攻隊に志願する並木。そこで彼を待ちうけていたのは、真っ暗な“出口のない海”だった・・・。
戦争という過酷な状況下にあって、そのうえ、「国を、愛する人を、家族を守る」ために人の命そのものが武器である“回天”特攻隊員という‘先のない’運命にありながらも、<魔球>の完成を最後まであきらめない並木の姿は感動的である。
戦争を「ああいう時代だった。時代が悪かったから仕方がない」だけでは済まされないものを感じた。終戦から数十年経ったが、当時の記憶も記録も決して風化させては
ならない。
著者は’95年にも広島の原爆をモチーフにした感動のノンフィクション、『平和の芽---語りつぐ原爆・沼田鈴子ものがたり』を著しており、この時期の著者が反戦・平和への祈りに傾倒していたことがうかがえる。
本書によって読者は、ミステリー作家としてブレイクする以前の、横山秀夫の原点を
垣間見ることができる。

ちなみに、本書を原作にした同タイトルの映画がこの秋公開されるようだ。