今日読み終えた本

そして名探偵は生まれた

そして名探偵は生まれた

久しぶりに私のホームグラウンド、“本格パズラー”ミステリーである。
ワクワクしながら一気に読んでしまった。
歌野晶午本格ミステリー界の巨匠、島田荘司に師事して、名探偵・信濃譲二が活躍する『長い家の殺人』でデビューしたのは’88年であり、彼は綾辻行人有栖川有栖法月綸太郎我孫子武丸らと共に「新本格一期生」として知られている。以来、寡作ながらも着実に本格ミステリーを書いてきた。そんな彼が脚光を浴びたのは’03年発表の『葉桜の季節に君を想うということ』だった。この年の「このミステリーがすごい!
国内編で第1位となり、歌野晶午は一躍メジャーな作家になったのだ。
本書は「雪の山荘」、「絶海の孤島」、「西洋館」それぞれを舞台にしておこる<不可能犯罪>を扱った3つの中編からなる、本格のコード満載の“本格パズラー”ミステリーである。
「そして名探偵は生まれた」(本書のための書下ろし):歴代の所有者が次々と不幸に襲われたという呪われた山荘で、新興企業の若き総帥が撲殺された。殺害現場は雪で閉ざされた完全な密室状態。名探偵・影浦が事件の解決に乗り出すが・・・。2重3重のどんでん返しが冴えるパズラーである。名探偵も人の子、なんとお金に困っていたとは・・・。現実は厳しい。
「生存者、一名」(「祥伝社400円文庫」シリーズで’00年に発表された文庫オリジナル作品を収録。普通は単行本が後年文庫化されるのだが、その逆になっているところが面白い。また、この作品は’02年『絶海』というノベルス版のアンソロジーにも収録
されている):新興宗教の信者4人が爆弾テロを実行。彼らは法王の指示で、ほとぼりが冷めるまで東シナ海の絶海の孤島に潜伏することになる。しかしそれは教団幹部が
仕組んだ罠だった。彼らはひとり、またひとりと殺害されてゆく。信者の女性の手記の体裁をとった物語は、ドキュメンタリータッチでサスペンスを盛り上げていく。どちらとも受け取れるラストの一行が心憎い。
「館という名の楽園で」(上記と同じシリーズで、’02年に発表の文庫オリジナル作品の収録):はじめから伏線を張り巡らしたガチガチの“本格”もの。探偵小説の愛好家が自身で小説に出てくるような西洋館を建て、学生時代の友人たちを招いて推理ゲームをおこなうという物語。19世紀半ばのイングランドの逸話なども盛り込まれ、
館そのものをトリックにした、本格ファンにはこたえられない逸品。
本書は、すぐ読めてしまうのがもったいないほど3作品のセレクションが絶妙で、
新本格一期生」のひとり、歌野晶午の魅力を存分に味わうことができる。