今日読み終えた本

芦辺拓は’90年、凝りに凝ったミステリー、『殺人喜劇の13人』で「第1回鮎川哲也賞」を受賞してデビューした“本格ミステリー”作家である。時によって社会性のあるテーマをモチーフにしたミステリーも発表してきたが、デビュー以来、著者がこだわっているのは、自らが少年時代にハラハラ、ドキドキ、ワクワク胸躍らせて読んだ“探偵小説”の豊かな物語性と現代の “本格謎解きミステリー”のあざやかな 論理性との融合である。著者の作品がどれも一種レトロな雰囲気を醸し出していて、私のような“本格ミステリー”ファンの胸をくすぐるのはそのせいであろう。最近文庫化された『グラン・ギニョール城』などはその成功例で、著者の代表作であると共に、私が最も好きな芦辺作品だ。
さて本書は、著者の諸作品におけるメインキャラクター、名探偵・森江春策の少年時代から現在に至る年代別の5つの推理・冒険譚を集めた中・短編集である。
小学5年の初夏、森江少年は妖しいキネオラマで数々の奇妙な体験をして、怪人と名探偵に出会う(「少年探偵はキネオラマの夢を見る」)。これがそもそも名探偵・森江春策の生涯最初の事件だった。中学3年の冬、「存在しない13号室」があるアパートの謎を解明し(「幽鬼魔荘殺人事件と13号室の謎」)、大学2年の夏には大阪と京都で起きた怪死事件をつなぐ意外な真相を看破する(滝警部補自身の事件」)。新聞記者となった彼は、廃墟のホテルで発見された生首にまつわる事件を解決し(「街角の断頭台」)、そして弁護士に転身した現在の彼が対決するのは、なんとタイムマシン(!?)を使った殺人者だった(「時空を征服した男」)。さらにこの最後の物語には、ラストで
過去の4つの事件で積み残されたそれぞれの“謎”が解明されるという仕掛けも
ほどこされている。
いずれの作品も、上述した「こだわり」に基づいた著者のカラーが遺憾なく表れており、ミステリー好きな読者、とりわけ “レトロな探偵小説”、“本格謎解きミステリー”の熱烈なファンはよりいっそう、楽しんで読むことができる。
ちなみに本書は、昨年作家デビュー15周年を迎えた芦辺拓の、記念すべき30冊目の著書である。