今日読み終えた本

wakaba-mark2006-06-04

骨と沈黙 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

骨と沈黙 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

レジナルド・ヒルは、ダルジール警視シリーズ11作目の本書で、英国における
ミステリーの最高峰、「CWA(英国推理作家協会)賞」の’90年度ゴールド・ダガー
(最優秀長編賞)に輝いた。
日本では、’92年「このミステリーがすごい!」海外編で第1位になっている。
ダルジール警視の隣家で女が撃たれる事件が起きた。その直前の様子を窓からダルジール自身が目撃するところから物語は始まる。現場にいた建設会社社長は銃の暴発事故だと主張したが、ダルジールは納得できず、殺人として強引に捜査を進めていく。
ダルジール警視宛てに定期的に送られてくる差出人不明の自殺を予告する手紙、市民によって演じられる中世聖史劇、失踪した証言者の行方、そしてくだんの建設会社社長の周辺で続けて偶発する事件、という4つの異なる要素の複雑な組み合わせによって進行する物語は、最後までそれが何処に行き着こうとしているのかまったく見極めがつかない。
シリーズですっかりおなじみとなった、巨漢のアンチ・ヒーロー型主人公・ダルジール警視と、あらゆる点で警視とは正反対のハンサムなパスコー主任警部、そしてこのふたりの補佐役、醜男のウィールド部長刑事たちのやりとりも本書の楽しい読みどころのひとつである。
“謎解き”はもちろんのこと、機知とユーモア、軽妙なアイロニーという英国ミステリーの真髄がこの作品にはあり、同時代にCWAゴールド・ダガー賞を受賞したピーター・ラヴゼイやコリン・デクスターの諸作品(『偽のデュー警部』、『ウッドストック行最終バス』、『キドリントンから消えた娘』など)とも相通ずるところがある。
本書は、まだ10数年前に書かれた作品であるにもかかわらず、すでにクラシックの名作の雰囲気すら漂い、古きよき時代の英国ミステリーの伝統を今に伝える逸品である。