今日読み終えた本

女神の天秤 (講談社文庫)

女神の天秤 (講談社文庫)

フィリップ・マーゴリンは、アメリカでは‘10割打者’の異名を持つ人気作家で、読み始めたらやめられず、どんどんページをめくってしまうほどのエンターテインメント、いわゆるページ・ターナーの書き手といわれている。本書は、そんな評判どおりの、期待を
裏切らないノンストップ・サスペンスである。
アメリカ西海岸・オレゴン州ポートランドの有力法律事務所の若き弁護士、ダニエル・エイムズは、ある製薬会社に対する薬害訴訟の弁護団に加えられ、さまざまな事件に遭遇する。身に覚えのない仕事上のミス、事務所からの解雇、そのうえ彼は上司を
殺害した容疑で逮捕されてしまう。そして仲間の手を借りて保釈された彼に迫る
殺し屋の魔手・・。
それだけではない。何者かに襲われる製薬会社の研究所、現場に残された焼死体は失踪した製薬会社の科学者なのか・・。リーガル・サスペンスならではの緊迫の法廷
場面。薬害訴訟自体の行方と、告訴した原告を代表する「弱者の味方」として知られる辣腕弁護士の真の狙いは・・。
そして今回の事件の背景には、意外にもアリゾナの富豪と7年前にそこで起きた
ふたつの誘拐殺人事件が関係していたことが分かってくる。
誰が、何のために、何をしようとしているのか。事件に巻き込まれたダニエルの運命は・・。
とにかく、意表をつくストーリー展開と、短い章立てで、テンポよく次々に、これでもかと
繰り出されるサスペンスの連続は、文字通り私のページをめくる手を止めさせてくれ
なかった。
そもそも物語はアリゾナの田舎町の、ある弁護士が、出張先のニューヨークの画廊で
一枚の写真を見て異常に驚愕するシーンから始まる。冒頭に現れるこの“謎”の写真
こそがストーリー全体に関わってくる大きなキーポイントになっている。最後の最後で読者は「ああ、そうだったのか」と初めて分かり、著者にしてやられるのである。
このあたりの伏線の仕掛けも心憎いほど上手い。
マーゴリンは日本ではあまりポピュラーではないが、もっともっと紹介されて然るべき
作家だと思う。