今日読み終えた本

静寂の叫び〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

静寂の叫び〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

静寂の叫び〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

静寂の叫び〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

本書でディーヴァーはブレイクしたといわれており、続く<リンカーン・ライム>シリーズで一躍人気を博する以前の段階での最高傑作とされている。
’97年「このミステリーがすごい!」海外編第5位にランクインしている。
3人の脱獄囚が、聾学校の教師と生徒を人質にして、廃屋となった食肉加工場に
立てこもる。FBIの危機管理チーム交渉担当者・ポターと、犯人側のリーダー・ルーとの交渉の過程がストーリーの大部分を占める。
人質を解放し、なおかつ犯人を逮捕するという難題。連邦の機関であるFBIと州警察、そして地元の保安官までもが絡む縄張りと権限争い。スタンドプレイで横槍を入れる州の法務次官補。スクープを独占するために侵入するマスコミ。そして実力行使に
訴えようとする州警察の武装した人質救出部隊、人質の命を最優先する日本とは
異なり、犯人逮捕のためならば「許容できる死傷者数」なるものが存在するのだ。
ポターは、これらすべてに、現場責任者として対応しなければならない。
一方で、加工場内部の、人質の若き女性教育実習生の、凶悪な犯人に対する、
臆することない抵抗も見逃せない。彼女は、自身も障害者でありながら、独力で
生徒たちを脱出させるべく死力を尽くすのだ。
とにかく想定されるあらゆる事態が、著者の綿密な情報取材により、ディテールまで
詳細に描かれ、読者はどう転ぶか分からないドキュメンタリーを、手に汗握ってリアルタイムに観ているかのような緊迫感を抱く。
さらに、いったんは解決したかに見えた事件だが、ラストで、ディーヴァーならではの、“大どんでん返し”、“誰も予想だにしなかった結末”が待っている。
本書は、サスペンスフルでスリリングなミステリーとして一級品であると同時に、
交渉に苦闘するポターの姿や、健聴者にはうかがい知ることのできない聾者の世界を見事に描いたヒューマンドラマである。