今日読み終えた本

ボトムズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ボトムズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

本書は、アメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」
・通称エドガー賞の’01年度最優秀長編賞受賞作である。
日本では’02年、「このミステリーがすごい!」海外編第13位にランクインしている。
齢80を越え、老人ホームで寝たきりの日々を過ごす‘私’が、遥か遠くに過ぎ去りし
70年近く前の冒険譚を回想する。
時は1933年から34年にかけて。所はテキサス東部。‘私’は11才の少年だった。
物語は、黒人差別がきわめて普通に浸透しているアメリカ南東部の1930年代を
時代背景に、黒人娼婦連続殺人を事件の幕開けとしている。9才の妹を持つ‘私’は、長男としての責任感にあふれ、地元で治安官を務める父親の助手となって事件を
解決しようと思う。
やがて父親の捜査の思惑とはまったく別のところで、黒人の老人が犯人に仕立て上げられ、首を吊るされて殺される。しかし事件は続いた。黒人娼婦以外の殺人が新たに連続して起こったのだ。そして物語のクライマックスで意外な人物が真犯人・精神を
病んだシリアル・キラーとして明らかになる。
ランズデールは一連の物語を、瑞々しい少年の感性と、家族の絆、黒人差別が当たり前の時代小説としての重み、そして老人の回想というノスタルジックな切なさを漂わせながら、ゴシック・ホラーの要素も加えて、実にうまく描き込んでいる。
私は、ランズデールの“語りの才能”と“文学的香気立つ筆致”に脱帽すると同時に、
ミステリーであるにもかかわらず、すぐれた文学作品を読んでいるような感じさえ覚えた。