今日読み終えた本

殺しの儀式 (集英社文庫)

殺しの儀式 (集英社文庫)

英国におけるミステリーの頂点、「CWA(英国推理作家協会)賞」の’95年度ゴールド・ダガー賞(最優秀長編賞)受賞作である。ヴァル・マクダーミドは日本ではあまりポピュラーではないが、あのジェフリー・ディーヴァーが好きな作家のひとりとして挙げているほど、イギリスやアメリカではその才能と作品が高く評価されている女流作家であり、本書も出色の出来のサイコ・サスペンスである。
イギリス中部の地方都市ブラッドフィールドで、男性ばかりを狙った連続殺人事件が発生。被害者には皆、むごい拷問の跡があった。捜査に当たるのは女性警部補キャロルだが、あまりにも異常な事件であるために、犯人像割り出し(プロファイリング)に、内務省の心理学者のトニーが捜査チームに加わることになる。
本書のポイントは、ひとつはトニーの、犯人像割り出しのためのプロファイリングの手法とその結論に対する知的な興味である。警察の協力を得て、全力で取り組むトニーの、科学的かつ心理的で緻密な分析は、本書の読みどころである。
もうひとつは、物語の叙述方法として、サディスティックな殺人者の心情を綴った手記が、キャロルたちのストーリーと交互に挿入されているスタイルである。初めは時間差があるが、次第に接近してお互いに激しく交錯してくる。それが捜査の進展と相乗して、作品の猟奇性とサスペンス性を盛り上げている。
ともあれ、何よりも読み終えて感じたのは、ある事情から残忍きわまりないシリアル・キラーと化してしまった真犯人の、悲痛な魂の叫びだったような気がする。マクダーミドは、本書ではエンターテインメント性よりも、むしろそちらを読者へのメッセージとしたかったのかもしれない。