今日読み終えた本

炎の裁き (ハヤカワ文庫NV)

炎の裁き (ハヤカワ文庫NV)

本書は、‘10割打者’フィリップ・マーゴリンの5作目の長編である。
これまで読んだマーゴリンの作品と比べると、プロットの意匠もさることながら、若い
弁護士の成長物語という色彩の強い、キャラクター重視の人間ドラマの様相を呈している。
オレゴン州ポートランドで、父親が経営する大手法律事務所に勤務し、何不自由ない生活を送っていた弁護士のピーターは、自らの無知と過信が招いたミスで大切な訴訟に惨敗。父親の怒りを買い、片田舎のウィタカーへ修行とばかりに飛ばされる。
そこで女子大生惨殺事件の殺人容疑で起訴された青年ゲイリーの弁護を引き受けることに・・・。
「この裁判に勝てば、莫大な報酬を手にすると同時に、父を見返すことができる。」
はじめは不純な動機から弁護を引き受けたのだが、知的障害を持つ、純粋無垢な
ゲイリーとの心の交流を通じて、次第に弁護士としての自覚と誇りに目覚め、
甘やかされた自己中心的な半人前の男から、真摯で誠実な大人に成長してゆく。
さて一方、プロットとしての読みどころは、果たしてピーターは圧倒的に不利な裁判をどう闘ってゆくのか、というところである。
ここでもマーゴリンは、けれんたっぷりのミステリー趣向を見せてくれる。手に汗握る
法廷場面はもちろんのこと、二転三転するストーリー展開、しっかりと張られた伏線の上に成り立つどんでん返しの連続、予想外の真犯人と、さすがに‘10割打者’は読者サービスにフル・スウィングである。