今日読み終えた本

wakaba-mark2007-01-22

最期の喝采 (講談社文庫)

最期の喝采 (講談社文庫)

英国が生んだ‘稀代の語り部ロバート・ゴダードの16作目の作品で、本国では
’04年に発表されたが、今のところ邦訳されているゴダードの最新刊である。
講談社 『IN・POCKET』 の「’06年文庫翻訳ミステリー・ベスト10」(写真右上)で、
<読者が選んだ>部門と<作家が選んだ>部門で、共に第6位にランクインした。
落ち目の舞台俳優、トビー・フラッドが8日間にわたって日記がわりに吹き込んだテープからの書き起こし、という形式をとって、一人称で事件が語られていく。
トビーは巡業先の地方都市ブライトンで、その街で帽子店を営む離婚訴訟中の妻から呼び出される。正体不明のある男に自分が見張られていて、その男はトビーと何らかの繋がりがあるらしいので、何者か探り出して、追い払って欲しいというのだ。その男、デリクとの接触は、トビーにとって思いもかけない運命の始まりだった。それまでの沈滞気味だった日々から一転して、次から次へと事件が連鎖する波乱に富んだ毎日が続き、彼はその渦中に巻き込まれて翻弄される羽目になる。
本書は、お得意の歴史ミステリーではないが、ゴダードらしい特徴をしっかり備えている。
ひとつ目は、往年の勢いが衰えて、いまひとつさえない中年の主人公。ふたつ目は、ある事件が次の事件を引き起こし、さらにその次も・・・といった、幾重にも絡み合った謎。三つ目は、ひと癖もふた癖もある登場人物たち。
そして、物語はトビーが、自らの危機と、あるきっかけから、ことの真相を突き止めようと決心したとたん、悲劇的な終幕へと突き進むことになる。
本書で読者は、改めてゴダードの、入念に緻密に組み立てられたプロットと、あざやかな語り口の妙を存分に味わうことができる。