今日読み終えた本

押入れのちよ

押入れのちよ

荻原浩にしては珍しい、というより初の短編集である。
’99年から’04年にかけて各社の小説誌に掲載された8編に、書き下ろし1編を
加えた9編からなっている。いずれもホラーのジャンルに属する短編ばかりであるが、
そこには生理的に恐怖を訴えるような物語は少なくて、お馴染みの“荻原ワールド”
が健在だ。
ラインナップを挙げてみる。
「お母さまのロシアのスープ」―最後の一行に向かうストーリー展開がさすが。
「コール」(書き下ろし)―私が本書で一番好きな作品。見事な叙述ホラー・ミステリー。
「押入れのちよ」(表題作)―本編こそ“萩原テイスト”にあふれた佳作。青年と幽霊との交流が、そこはかとなく哀しくもあり、ほほえましくもある。
「老猫」―これは生理的な恐怖をおぼえる、正真正銘のホラーである。
「殺意のレシピ」、「介護の鬼」、「予期せぬ訪問者」(いずれも『小説すばる』が初出)
―ブラック・コメディと言うかなんと言うか、怖いんだけれども笑えてしまう作品。
「木下闇」―クラシックなスタイルの正統派ホラー。
「しんちゃんの自転車」―「押入れのちよ」と根本的には同じようなジャンルの、読み終えてほっと安心する作品。
私は、本書を読み終えて、フジテレビの、タモリが案内役をつとめる『世にも奇妙な
物語』を連想した。映像化不可能な作品もあるが、テレビかラジオのドラマにでも
なりそうなものばかりだった。