今日読み終えた本

毒 poison

毒 poison

シリーズキャラクターが活躍するトラベル・ミステリーと、社会派的な問題を扱ったノン
・シリーズを書き分けているのが深谷忠記の執筆スタイルだ。その後者に当たるのが
’05年「このミス」第18位にランクインした『審判』に続いて、’06年に上梓した本書である。
物語は、冒頭から「少年は父を殺そうと思った」で始まったり、病院を舞台にして、
主人公らしい女性看護師や、わがままな暴君的老患者が出てきたりして、ミステリー
ファンの興味をそそる雰囲気が漂う。
すわ、医療ミステリーかと思って読んでいくとそうでもない。
ストーリーは、第1部の「伏流」で、文字通り複雑な人間関係の経緯が二組の入院家族を軸に語られる。
そして、第2部の「湧出」で殺人事件が起こる。病院内で、くだんの暴君的老患者が
その直前に保管庫から紛失していた筋弛緩剤を注射されて殺害されるのだ。
逮捕される若き脳神経外科医。いきなり退職する不審な看護師。そして一時帰宅を
許可された入院患者の服毒自殺と、畳み掛けるように物語が動く。
やがてジェットコースターのように二転三転する真相。さらにラストには驚くべき真実が待っていた。読者はここに至って、初めてうまく騙されていたことに気づき、著者が仕掛けたプロローグの部分と第1部「伏流」の巧妙な伏線を思い知るのである。
本書は、ベテランミステリー作家、深谷忠記が、満を持して構築した意欲作である。