今日読み終えた本

最後の願い

最後の願い

さだまさしの『もう愛の歌なんて唄えない』の歌詞で始まる本書は、恋愛小説かと
思いきや、立派なミステリーである。
光原百合は、北村薫をその嚆矢とすると言われる、倉知淳加納朋子若竹七海らと並ぶ“日常の謎”派のミステリー作家である。本書は、7つの連作短編からなっており、それぞれが完結した物語になっていると共に、あとの物語で、先の物語中に積み残した謎が解明されて、最後の一編ですべての謎が収斂する、典型的な“日常の謎”ミステリーのスタイルをとっている。
’05年、「このミステリーがすごい!」国内編第10位にランクインしている。
全体のストーリーは、劇団を旗揚げしようとするふたりの青年が、役者やスタッフを
スカウトする過程で出会う“日常の謎”を解き明かしてゆく形で進む。
「引きちぎられて、床にばら撒かれていたバラの花」、「ケータイにかかってきた不審な間違い電話」、「盗まれるが、中身は何も盗られずに戻ってきたバッグ」などなど・・・。
同時にこれら“謎”の奥には、日常の生活に潜む人間心理がからんでいて、それらも優しい目で解いてゆく青年たちの姿を瑞々しく描いており、そういう意味では青春ミステリーの色合いも濃い。
そして、旗揚げ公演の劇場に‘居つく者’の「最後の願い」が明かされたとき、この新劇団の創設公演の幕が上がるのだ。