今日読み終えた本

弁護 (文春文庫)

弁護 (文春文庫)

本書は、D・W・バッファのデビュー小説であると共に、オレゴン州ポートランドを舞台に、弁護士ジョーゼフ・アントネッリを主人公にしたリーガル・サスペンス三部作の第1作
である。
’98年、「このミステリーがすごい!」海外編第15位。
常勝の弁護士アントネッリは、恩師と仰ぐ判事からのたっての頼みで、妻の連れ子を
レイプした義父が起訴された事件で弁護に立つ。天才的ともいうべき弁術で、圧倒的不利を跳ね返したアントネッリは、どう見ても有罪としか思えない男を無罪にしてしまう。
しかし歳月を経て、この事件は関係者の運命を狂わせはじめるのだ。その裁判のこともすっかり忘れられた数年後、第1の事件が起こる。男が有罪になっていれば起こらなかったはずの事件が・・・。そして、さらにもう数年後にくだんの判事をも巻き込む第2の事件が発生するに及んで、まるで機械のように弁護士活動を続けてきたアントネッリも、初めて、正義とは何か、弁護とは何かという問題に直面することになる。
アメリカのというわけでもないが、裁判という制度の不確実性を浮き彫りにする登場人物たちのディスカッションや、正義と自分の才能の間で揺れるアントネッリの思索など、本書の訴えかける問題は大きい。そして淡々とした時間の流れの果てに待ち受ける、意表をつく衝撃。
本書は、発表当時、「そろそろ出がらしだろうと思われたリーガル・フィクションの世界に思わぬ才能が現れた」といわれたが、なるほどと頷ける一作である。