今日読み終えた本

千年樹

千年樹

本書は、’03年12月号から’06年12月号の間に「小説すばる」に掲載された作品をもとにした、萩原浩としては珍しい連作短編集である。
いじめに悩む中学生の雅也がくすの巨樹の前で自殺を考える「萌芽」。
タイムカプセルを埋めようとした幼稚園児の雅也と、こまどり組の17人が、木の下からガラスビンを発見する「瓶詰の約束」。
くすの木の下で男を待つ女が、かつて同じ場所で男を待ち続けた女と出会う「梢の呼ぶ声」。
木を上司や生徒に見立ててナイフで切り刻むのが日課の中学教師と、過去理不尽な切腹を命じられた男の運命が交じり合う「蝉鳴くや」。
人を殺そうとしていたヤクザを昔ここで人を殺した盗賊の運命が救う「夜鳴き鳥」。
ドライブ中偶然巨樹を発見した家族の前に150年前の間引きの風習と母の苦悩が
蘇える「郭公の巣」。
祖母の初恋を知った孫娘の共感を描いた「バァバの石段」。
市役所職員となった41歳の雅也が、かつて自殺を試みた「くすの木」の伐採に立ち合う「落枝」。
物語は、時に短編一編内で、また時に短編間の枠を超えて、時代を超えて交錯する。巨樹「くすの木」は千年にわたってすべてを見ていた・・・。今回の作品にはいつもの
萩原浩のようなユーモアやペーソス、そして何かに向かって奮闘する姿というものは薄い。何となくはかなく哀しく、時に少し怖い物語ばかりだった。