今日読み終えた本

殺しの仮面(上) (集英社文庫)

殺しの仮面(上) (集英社文庫)

殺しの仮面(下) (集英社文庫)

殺しの仮面(下) (集英社文庫)

女性警部キャロル&心理分析官トニー・シリーズの第4弾。第1弾『殺しの儀式』は
英国におけるミステリーの頂点、「CWA(英国推理作家協会)ゴールド・ダガー賞(最優秀長編賞)」を受賞しており、本書も’04年度のゴールド・ダガー賞の候補作になった。
本書をキャロルとトニーの恋愛シリーズのように読む人もいるが、私はあくまでスリリングなサイコ・スリラーの逸品として堪能した。今後もロマンス路線に走ることなく、じっくりとサスペンス・ミステリーを味わわせて欲しいと思う。
前作で大きな心の傷を負ったキャロルはブランドン本部長に誘われる形でシリーズ第1作の舞台、『殺しの儀式』の、あのブラッドフィールド市警に復帰した。新しい職務は、新設された重大犯罪専門のチームだ。ここで中間管理職としてキャロルが部下掌握や上司の命令に四苦八苦する様は見ていて気の毒になるほどだ。どこでも同じである。
さて彼女のチームが担当するのは、児童誘拐事件と娼婦殺人事件である。しかも児童誘拐事件の方は日にちがかなり経っているので生存の可能性は低い。娼婦事件の方は、過去に同様の手口で事件が連続して発生しており、その犯人はすでに捕まっていた。いやそれにしても何から何まで似通っている。模倣犯の仕業か。キャロルの上司は、おとり捜査の命令を下すが、それこそキャロルがドイツで心と身体に深い傷を負った原因だった。気が進まないままにおとり捜査は始まるが、思いがけない罠が待っており、おとりの女性巡査は拉致されてしまう。こういうときに頼りとなるのはトニーのプロファイリングである。
4部構成のボリュームのある物語ながら、文体とフォントを変えた真犯人の独白をはじめとして、映画のカットバックのように三人称多視点で描かれた文章には無駄がなく、読者はハラハラ、ドキドキしながら一気読み必至である。
ファンとして惜しむらくは、トニーのプロファイリングをもっと文中に取り入れて欲しかった。