今日読み終えた本

魔弾 (新潮文庫)

魔弾 (新潮文庫)

『極大射程』や『悪徳の都』など、“ボブ・リー・スワガー&アール・スワガー”サーガで
有名なスティーヴン・ハンターが’80年に発表したデビュー作である。いかにも銃器
フェチの作家らしく、また天才的な(しかも人間離れした心と技の持ち主である)狙撃手を書かせては第一人者らしく、後の名作群を彷彿とさせる出来となっている。
第二次大戦末期、ドイツ敗戦の色濃くなる中、ナチス親衛隊は持てる力のすべてを
結集して、ある作戦を実行に移そうとしていた。その「ニーベルンゲン作戦」の実行者に選ばれたのが、“狙撃の名手(マスター・スナイパー、本書の原題)”として知られる
ドイツ軍武装親衛隊のレップ中佐だった。
彼がターゲットとしているのは誰なのか?作戦の目的は何なのか?アメリカ陸軍の
戦略事務局リーツ大尉と英国陸軍の特殊作戦局アウスウェイス少佐は、その全容を明らかにしようと奔走する。その間にも、レップはドイツが科学技術の粋を尽くして開発した赤外線暗視装置―人呼んで秘密兵器“吸血鬼(ヴァムピーア)”―を手に、着々と標的に迫りつつあった。
このデビュー作には、スティーヴン・ハンターの書きたかったであろうあらゆる要素が、無造作に全部詰め込まれているようだ。巧みなストーリー展開、銃器へのこだわり、
自分の信念に従って行動する登場人物たち、ソ連軍を相手にしたレップ中佐の迫力
ある狙撃戦の場面など、まさにハンターの真骨頂といってもいいだろう。
本書はハンターの後の名作群を読んでいる私でも、いや知っているからこそ、なおいっそうの読み応えを感じるさせる逸品である。