今日読み終えた本

凍える森 (集英社文庫)

凍える森 (集英社文庫)

ドイツ犯罪史上最もミステリアスといわれた、1922年に実際に起きた一家惨殺の
迷宮入り事件をモチーフに、そのまま時代を’50年代に持ってきた、’07年ドイツ
ミステリー大賞受賞作。
本書の特長は、なんといっても、ひとつはそのスタイルだろう。友人や教師、郵便配達人、近所の農夫、神父など、犠牲者一家を知る者の証言がメインの構成で、私たち
読者は、いわば新聞記者や刑事のような立場で彼らと向き合い、そして、ちょうど薄皮が一枚ずつむかれて行くように、次第に、惨殺された一家の真の姿と真犯人があぶりだされてゆく過程を味わうのだ。
この趣向に前例がないわけではないが、本書の場合コンパクトにまとめられていて、内容も簡潔で要点をついておりとても読みやすい。扇情的でない静かな筆致で事件の核心に迫り、まさに出色の出来である。作品全体で見ても、大作の多いミステリー界においては、文庫200ページ足らずというのは珍しいのではないだろうか。
もうひとつの特長は、一見極めて平和でのどかに見える村社会の底に潜む暗部である。本書が最も訴えたいのはまさにそこ、つまり村人を縛る「因習」であり、彼らが感じる「閉塞感」、そして「神への信仰」という偽善なのである。