今日読み終えた本

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

’06年、「このミステリーがすごい!」国内編第3位に、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門第10位にランクインした、ミステリー界では今最も注目されている気鋭の
作家・道尾秀介本格ミステリー。登場人物の設定と各人のパーソナリティーの妙と
いい、随所にちりばめられた伏線の妙といい、新人離れしている。
また物語自体がそれほど長すぎないのもちょうどいい。
ここに父親同士、母親同士、子供同士がそれぞれ同級生というふた組の家族がいた。メインの謎は、どうやら、かたや癌で、かたや自殺で、相次いで母親を失ったこれら
ふた家族の隠された秘密にあるらしいのだが、読んでいるうちに落ち着きどころが
分からなくなってゆく。実は、読者の目を眩ませる巧妙なミスディレクションが仕込まれているのである。
ストーリーは主に片方の父親洋一郎とその息子で小学5年生の鳳介の、三人称の
視点で描かれているが、この鳳介の視点がなかなかいい。自分だけでなく、もう一方の家族も含めて、母親の死や虐待という最もきつい体験にさいなまれる子どもの心理をいきいきとした筆致で描きながら、それらすべてを終末に向けて、真犯人も含めて
あっと驚くプロットに『着地』させている。
トリック自体を精神疾患に頼りすぎており、ひとつ間違えればホラー小説になりがちな危うさはあるけれども、本書はミステリーの逸品であり、道尾秀介は斯界の新たな名手であることは間違いない。