今日読み終えた本

最後の陪審員〈上〉 (新潮文庫)

最後の陪審員〈上〉 (新潮文庫)

最後の陪審員〈下〉 (新潮文庫)

最後の陪審員〈下〉 (新潮文庫)

ジョン・グリシャムは、『法律事務所』、『ペリカン文書』などの映画を通してしか知らなかったが、今回、「未亡人強姦殺人事件から9年、次々殺される陪審員たち・・・」という惹句に、ミステリーファンとしてはゾクゾクするリーガル・サスペンスを期待して、初めて手にとって読んでみた。しかしグリシャムが本書を書いた真の目的は、そんなセンセーショナルなものではなかった。
作品全体を貫くのは、なるほど残虐な殺人事件とその公判、そして9年後の陪審員
連続殺人である。しかし、この長い物語で描かれるのは、弱冠23才の青年ウィリーが、1970年、アメリカ深南部ミシシッピ州の地方都市クラントンで週刊新聞社の若き社主となって以後、10年にわたって、さまざまな住民と出会い、大小の事件に遭遇し、街の発展をつぶさに報道していった結果見えてくる当時のアメリカ南部の現状なの
である。いわく、人種差別、犯罪の発生、街の経済発展に伴う住民たちの不公平感、権力構造の形成と政治の変遷、信仰する宗教の問題などである。
そして、ウィリーはそんななかで右往左往しながら、一度は倒産した新聞を復活・成功させ、その新聞と共に成長し、やがて成熟してゆく。
本書は、ウィリーの成長物語であると同時に、アメリカ現代史の縮図とでも言うべき
南部の地方都市クラントンを描いた、魅力的な小説である。