今日読み終えた本

冷血 (新潮文庫)

冷血 (新潮文庫)

1959年11月15日深更、カンザスの片田舎で起きた一家四人惨殺事件。事件発生以前から犯人の絞首刑までを綿密に再現したノンフィクション・ノヴェルである。
1965年に発表された作品だが、カポーティは本書の執筆に先立ち、3年を費やして
ノート6000ページに及ぶ資料を収集し、さらに3年近くをかけてそれを整理したと
いわれている。
この作品の価値は、著者の主観を一切排除して、事件を、事件前夜から、犯人二人組が絞首台を上りつめるまで詳細に、そして多角的に再現し、あくまで客観的にひとつの物語として編み上げた点にあると思う。実際、物語は加害者、被害者、捜査官はもちろんのこと、関係する家族など周辺の人々の会話や証言、手紙など三人称多視点で
成り立っている。
その多層に織り込まれたドラマは、それだけでも、読むものを圧倒する。
私はセンセーショナルな犯罪もののドキュメンタリーを予想していたが、そこにあったのは、繰り返し描かれる“家族の絆”のようなものであった。
そのあたりが本書を、40年以上経った今でも、圧倒的な迫力を携えながら、読む者の
心の奥底に迫ってくる名著にしているのだろう。