今日読み終えた本

壁に書かれた預言 (集英社文庫 マ 7-10)

壁に書かれた預言 (集英社文庫 マ 7-10)

『殺しの儀式』、『殺しの四重奏』、『殺しの仮面』と、心理学者トニーと警察官キャロルが活躍するサイコ・サスペンスで有名なヴァル・マクダーミドの短編集である。
私は、上記の各長編を読んで彼女の魅力に取りつかれたひとりだが、短編ではどんな趣向で楽しませてくれるか期待して読んだ。
本書は、’05年に一冊の本として刊行されたものだが、’89年から’04年までに
いろんなメディアに発表された18編に加え、’04年に執筆した未発表の1編から
なっている。
印象に残ったものをいくつか挙げてみると・・・
「疾走」−愛車を盗まれた依頼人に一矢を報いた女性私立探偵・・
「壁に書かれた預言」−恋人の暴力に悩む女性がトイレの壁に落書きをし、それを
通して交わされる議論の果てに行き着いた先は・・
「得がたい伴侶」−店頭の毒物混入殺人は、きわめて今日的・社会的な、意外な動機によるものだった・・
「善意の罠」−海賊版ゲームソフトの出所を探るよう依頼された女性私立探偵がたどりついた皮肉な真相とは・・
「恋人たちの末路」−メールを使ったラブ・ストーリーかと思って読んでいたら、最後に驚愕の結末が待っていた・・
他の作品も、長編でみられるマクダーミドらしさがうかがえ、題材や語り口がバラエティーに富んでいるだけに新鮮さが感じられる。
この短編集の全編にわたって漂っているのは、いかにも女性作家らしい恋愛などの
繊細な心理描写であるが、その恋愛も男女間にとどまらず、女性同士の同性愛にも
及んでいるところも読みどころである。
ジェフリー・ディーヴァーの短編集が“どんでん返し”や“罠”をきかせた「動」である
なら、本書は“オチ”をきかせた「静」であるといえるだろう。