今日読み終えた本

ロスト・エコー (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 12-3)

ロスト・エコー (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 12-3)

ある特殊な能力を持った青年の物語である。
ハリーは子ども時代、おたふくかぜのような症状で高熱を出して倒れ、片耳の聴力を失う。だがあるきっかけで聴力が回復したばかりか、過去の音が聞こえるように
なった。そしてその音がきっかけとなって、その時にふるわれた暴力の光景や誰かが恐怖をおぼえた場面が見えるのだ。
やがて大学生になった彼はこの能力に悩み、酒を飲んで麻痺させたり、悪友とつるんで遊んだりするようになっていた。そんなある夜、以前は武術を教えていたというタッドと知り合う。タッドも妻子を失い酒浸りの生活を送っていたが、ふたりして酒を断ち、
お互い信頼関係を築いてゆく。ハリーはタッドのもとで武術の修行をしながら、自分の“核”を見つけようと努力するうちに、いつしか勇気と自信を身につける。
物語の後半は、ハリーが幼なじみで初恋の相手でもあるケイラと再会し、自殺として
処理された彼女の父親の死の真相の解明に協力することになるのだが、待っていたのは意外な展開と、ハリーとケイラ、そしてタッドに襲い掛かる危機だった。
本書はMWA賞をとった『ボトムズ』や、重厚な『ダークライン』と比べると、やや軽い
印象を受けるが、ナイーブな若者ハリーの成長を中心とした青春小説と、活劇風サスペンスが一体となった、楽しくサクサク読めるエンターテインメントに仕上がっている。