今日読み終えた本

無痛 (幻冬舎文庫)

無痛 (幻冬舎文庫)

本書は、『廃用身』、『破裂』に次ぐ、久坂部羊(くさかべよう)の3作目の長編小説で
ある。前の2作がともにテーマ性のある小説だったのと同様、今回のメインのテーマは刑法第39条の「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を
軽減する」という規定である。
神戸の閑静な住宅街で一家4人が殺害される。犯罪現場は凄惨で、その手口には、人間的な躊躇はいっさい見られず、犯人には人格障害の疑いが濃厚だった。
そこで本書は、上記の刑法第39条の理不尽さを問うミステリーとして開幕する。
また、本書は、登場人物も実に多彩である。人間を外側から見て、医学的徴候の診断だけでその人の健康状態や病気の進行状態を読み取ることのできる、主人公格の
為頼英介をはじめとして、サナトリウムで働く臨床心理士、高島菜見子。彼女は自分の看護する14才の少女が一家4人惨殺事件の犯人だと自称していると為頼に相談する。彼女をストーキングする別れた前夫。事件を執念で捜査する早瀬刑事。為頼とおなじく、医学的徴候の解読の天才でありながら、その才能をエリート患者のための
一大医療センターの形成に注ぐ白神陽児。そして、何よりもインパクトがあるのが、
白神のもとで手術の器材係として働く「先天性無痛症」のイバラである。
本書は、彼らが、現代医療現場の問題点をからめながらも、刑法39条に関係し、実に複雑な、読み応えのある人間ドラマを演ずる力作である。