今日読み終えた本

運命の日 上 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

運命の日 上 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

運命の日 下 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

運命の日 下 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

’08年、「このミステリーがすごい!」海外編第3位、「週刊文春ミステリーベスト10」
海外部門第5位にランクインした、ハードカバー上・下巻2段組の大長編である。
舞台は1910年代末のボストン。スペイン風邪と呼ばれるインフルエンザが世界的に大流行したり、第一次世界大戦終結したり、なにより、ロシア革命の影響を受け、
社会主義を標榜する者たちが増え、テロも頻発するといった動乱の時代であった。
ボストン市警の巡査であるダニー・コグリンは、労働運動や急進派の活動を調査する特別任務を受けて、市警の組合の母体であるBSC(ボストン・ソーシャル・クラブ)に
潜入・内偵していたが、次第に仲間たちの考えに同調し、組織の活動を率いるまでになる。
一方、地元ギャングとの諍いから殺人を犯してしまったルーサーという黒人青年が、
オクラホマに身重の妻を残してボストンに逃れてきた。彼は縁あってコグリン家に
雇われることになって、ダニーやその妻となったノラとの間に信頼関係を築いてゆく。
物語は、彼ら3人の人種差別や苦しい非難を乗り越えた友情や、コグリン家の家族の絆と愛情のドラマを横軸としながらも、縦軸には風雲急を告げる労働運動を置き、
クライマックスではついにボストン市警1400名の警官たちが待遇改善を求めて
ストライキに突入し、街は大暴動におちいってしまう。
本書は、ミステリーランキングの上位に位置しているが、私が思うにこの作品はミステリーでもエンターテインメントでもない。日本でも、格差社会、不況、非正規雇用者の
契約打ち切り、内定取り消しなどが横行するなか、プロレタリア文学を代表する小説
蟹工船』が再評価され売れている。この、時代の運命に抗して闘う人々を、当時の
史実を織り交ぜながら描いたドラマは、今の時代にもタイムリーであると同時に、
読み応え充分、デニス・ルヘイン畢生の社会派大作である。