読書記録3
- 作者: S.J.ローザン,S.J. Rozan,直良和美
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/06
- メディア: 文庫
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中国系のアメリカ人女性リディア・チンとアイルランド系の中年男性ビル・スミス。
このふたりの私立探偵が、主にニューヨークを舞台に、交互に主役をつとめるシリーズの8作目の長編である。今回の‘わたし’は、ビル・スミスである。
11月の深夜、警察署へ呼び出された‘わたし’は、甥のゲイリーと思わぬ再会を
果たす。いったんは自宅へ連れ帰ったが、再び逃げだしたゲイリーを捜すため、
彼ら一家が住む町を‘わたし’は相棒のリディアとともに訪れる。
そこはニューヨークのマンハッタンから見るとハドソン川をはさんで対岸にあるニュー
ジャージー州の高級住宅街、ワレンズタウンというところで、アメリカン・フットボールの盛んな町だった。
‘わたし’たちはそこで、ある女子学生の変死事件に出くわし、23年前に起こった婦女暴行事件と併せて、フットボールが何をおいても優先されるという、町が抱えるゆがみと醜聞に、否応なく直面し、巻き込まれてゆくのだった。また、事件にかかわりながら、‘わたし’も自分自身の家族との過去を振り返り、立ち向かい、深く考えざるを得なく
なる。
私立探偵小説というと、ある意味派手なハードボイルドを連想しがちだが、本書は
あくまでも深い悲しみを感じさせる静かなムードがいつまでも印象に残る大作である。
本書は、アメリカにおけるミステリーの最高峰、MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞の
’03年度ベスト・ノヴェル(最優秀長編賞)を受賞しているが、明らかに’99年に起きたコロンバイン高校の学生による銃乱射殺害事件に触発されて書かれたに違いない。S・J・ローザンは本書において、さらにその事件の真の意味と問題点を発展させ、
小説化したのではないだろうか。そしてMWA賞受賞もなるほどと頷ける力作に
仕上げたのだ。
作品の舞台である小さな町ワレンズタウンは、まさに悩める現代アメリカの縮図
なのである。