読書記録4

レッド・ボイス (ハヤカワ・ノヴェルズ)

レッド・ボイス (ハヤカワ・ノヴェルズ)

’02年度は『サイレント・ジョー』で、’05年度は『カリフォルニア・ガール』で、2度も
MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞のベスト・ノヴェル(最優秀長編賞)を受賞している、T・ジェファーソン・パーカーのハードカバー翻訳最新書である。
‘わたし’こと、ロビー・ブラウンローは29才。サンディエゴ市警殺人課の刑事だ。
3年前、ある事故で頭を強く打ち、“共感覚”という特殊能力を持つようになった。
簡単に言うと相手の真意が色付きの形をともなって見えるのだ。例えば、嘘をついているときには、「赤い四角」という具合に。
ある日、市倫理局の捜査官ギャレットの遺体が車の中で発見される。自殺の線も考えられたが、現場の状況や、関係者の話から、他殺であることが明らかになり、‘わたし’がパートナーのマッケンジーと捜査を担当することになる。
ここまで書くと、‘わたし’が持ち前の“超能力”を発揮して、犯人を追い詰めるエスパー小説かと思われるが、実はそうではない。‘わたし’は、妻以外には誰にもこの能力のことを話していないのだ。
事件の方はといえば、ギャレットが市政にかかわる人々を取り締まる仕事をしていた
ことを考えると、恨みによる犯行が有力で、実際本書は、多くの関係者から事情を
聞いてまわるという、足を使った地道な警察小説のスタイルをとっている。
ではなぜ‘わたし’に、自分自身でさえも持て余すような“共感覚”なる特殊能力を
持たせたのだろう。私が思うに、職場、親族、夫婦、そして事件関係者など数多くの
多彩な登場人物たちのなかで、あくまで繊細で孤独な人物として‘わたし’を描きた
かったのではないだろうか。