読書記録5

ザ・ロード

ザ・ロード

’08年、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門第7位、「このミステリーがすごい!」海外編第13位にランクインした究極のロード・ノヴェル。
コーマック・マッカーシーという作家は、’07年度のアカデミー賞で作品賞をはじめ
4部門を受賞した映画≪ノーカントリー≫の原作『血と暴力の国』を読んで初めて
知った。
彼は実はアメリカを代表する文芸畑の巨匠で、『血と暴力の国』のようなクライム
ノヴェルを書いたこと自体が異例で、話題になったそうである。
そこで本書であるが、現時点でのマッカーシーの翻訳最新刊で’07年度の
ピュリッツァー賞に輝いたベストセラーである。
舞台は核戦争か異常気象で破滅した近未来。日が照らない空は分厚い灰色の雲に覆われ、地上は荒れ果て植物は枯死し動物の姿を見ることはほとんどない。
わずかに生き残った人間は飢え、無政府状態の中で凄惨な争いを続けている。
そんななかで名も無い父と息子が、暖かいだろうと思われる南を目指す物語である。ショッピングカートに荷物を積み、道々で食料と物資を探しながら・・・。
旅路で襲われたり、飢餓の恐怖に苛まれたりするスリルはあるものの、これは派手なパニック小説ではない。不気味なぐらい静かで穏やかだ。すでに悲嘆に泣き叫ぶ段階は通り過ぎているのだ。生と死の境界線のあたりをさまよいながら旅するふたりの姿は、人間が人間でいられるぎりぎりの存在感で迫ってくる。それは、息子があくまでも“純真・純粋”に描かれ、彼を守る父親にとって息子が“世界”のすべてだからだろう。
本書は、『血と暴力の国』同様、「心理描写がほとんどなく、会話に引用符をつけない」マッカーシー独特の文章といい、そして本書の「章立て」という区切りのないスタイルといい、彼ならではの独自の世界が展開された傑作である。