読書記録6

ゴーリキー・パーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ゴーリキー・パーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ゴーリキー・パーク 下 (ハヤカワ文庫 NV ス 10-4)

ゴーリキー・パーク 下 (ハヤカワ文庫 NV ス 10-4)

本書は、アメリカの作家によるアメリカの作品ながら、英国におけるミステリーの頂点、「CWA(英国推理作家協会)賞」’81年度ゴールド・ダガー賞(最優秀長編賞)を受賞している。ミステリーの大賞を獲得してはいるが、本書は、フーダニットやホワイダニットといった謎解きに重きをおいた小説ではない。
なるほど物語の発端は、モスクワのゴーリキー公園で雪の下から凍結した3体の射殺死体が見つかるところから始まるが、真犯人は下巻が始まってすぐに判明し、しかも
その真ん中あたりで退場してしまう。それでも主人公の人民警察レンコ主任捜査官は犯人を逮捕することが出来ない。
本書は、その時代背景が1977年という東西冷戦の真っ盛りの時代といい、舞台が
共産主義ソ連のモスクワといい、殺人事件をめぐって、われわれの「うかがいしれ
ない」、自由を束縛された捜査を強いられるレンコの苦闘の物語である。
強大な権力を持つモスクワ市検事局長イアムスコイ、KGBの少佐プリブルーダ、
さらにはニューヨーク市警部補カーウィル、アメリカの毛皮商人オズボーンなど、
怪しげな、個性豊かな人物たちが入り乱れ、暗躍する。レンコ自身の家庭生活も崩壊の危機に瀕している。
本書は、ミステリーの形式をとった、自由な発言が許されない国家における、
鉄のカーテンに閉ざされた国がはらむ問題を鋭く指摘・糾弾した問題作なのである。