読書記録48

北東の大地、逃亡の西 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1806)

北東の大地、逃亡の西 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1806)

’08年、「このミステリーがすごい!」海外編第12位にランクインした短編集。
2部構成で全13編からなっている。
スコット・ウォルヴンは、本人が経歴を公開していないこともあり、あまり馴染みがない作家だが、オットー・ペンズラーが毎年編纂する『ベスト・アメリカン・ミステリ』シリーズの常連で、デビュー以来、短編だけをコツコツと地道に書き続けている人だそうで
ある。
本書は、原書の副題が「刑務所、犯罪、そして男たちの物語」であり、舞台となって
いるのはアメリカの地方の州ばかりで、登場するのは、木材伐採人、トラック運転手、麻薬密売人、犯罪者追跡人、スクラップ業者、アルコール中毒者、麻薬中毒者、囚人、前科者、逃走中の犯罪者といった、何をやってもうまくいかず、社会の底辺で“負け犬”の人生を送っている男たちである。
そうした男たちの絶望や悲哀や後悔の念が、大半の作品が一人称ではあるが、本人の口を通してではなく、あくまでも抑えた筆致で、その言動や状況を描写することに
よって浮かび上がってくる。
なかでも私の胸に一番響いたのは「虎」という一編だった。勤勉な木材伐採業者が、
子持ちの女性と家庭を持とうとするが、何かが噛みあわなくなり破局する。
そして、その先には予想もつかない悲惨な結末が待っていた・・・。
それにしても、翻訳ものながら七搦理美子の訳がうまいのか、どの作品も味わい深い文章で語られ、読み終わってからいつまでも余韻が残った。
本書は、アメリカの片隅で、“負け犬”の人生を背負った男たちの生き様を、詩情豊かに描きあげた逸品である。