読書記録55

元職員 (100周年書き下ろし)

元職員 (100周年書き下ろし)

講談社創業100周年記念出版」の<書き下ろし100冊>シリーズの第1弾として
発表された作品。
飛行機はファーストクラス、ホテルまではタクシーでなくBMWのリムジンサービス、
宿泊は五つ星ホテルのレジデンススイートという豪華なバンコク旅行に来た男片桐。
本の帯に「吉田修一が到達した最高の『犯罪文学』」とあるので、期待して読み進んでみたが、片桐はある公社の会計課で公金を横領していることが次第にわかってくる。彼は有給を使って、ドタキャンした妻を置いて、ひとりで最後の豪遊をするつもり
らしい。
物語は、現地で出会った武志という若い男にミントと名乗る娼婦を紹介され、彼女と
過ごすさまざまなエピソードに終始する。この南国の大都会でいろんな体験をして、
最後に帰国する時、なぜか開き直って大笑いする場面で終わっている。
片桐の言動は、なかなか良く書けているので、根っからの小心者らしい彼の心象風景を綴った一種の心理小説といえるだろうが、それ以外の広がりというか奥の深さというものはあまり感じられなかったし、『悪人』を読んだ時のように魂が揺さぶられるような感動をおぼえることもなかった。
本書は、「最高の『犯罪文学』」というには遠く及ばない、「吉田修一」というブランドで
読ませる、ある公金横領男の一週間のバンコク旅行のエピソードを綴ったお話である。