読書記録56

ちょいな人々

ちょいな人々

本書は、’06年5月号から’07年12月号までの『オール讀物』に不定期で掲載された7つの短編からなっており、はじめから一冊の本になることを前提に書かれた短編集だそうである。
カジュアル・フライデーにとまどう中年の中間管理職「ちょいな人々」、
隣家の庭木を憎むガーデニングにハマる主婦「ガーデンウォーズ」、
脱サラした占い師の顛末「占い師の悪運」、
いじめ問題に真っ向から立ち向かう主婦相談員「いじめ電話相談室」、
ペットの本音を聞いて思わずたじろぐ飼い主たち「犬猫語完全翻訳機」、
新型の携帯電話の機能が皮肉な結果をもたらす「正直メール」、
熱狂的な阪神ファンの恋人が巨人ファンの父親のところに結婚の許しをもらうために訪れる「くたばれ、タイガース」。
ブームに翻弄される、どこにでもいそうな人たちを、ちょっと変に、面白おかしく描いた
7つのお話が小気味よくつながり、抱腹絶倒間違いなしである。
また、軽妙な文体で語られながらも、すべてのお話のここかしこにちりばめられた、
こまかい正確なそれぞれの分野の専門用語やその内容、薀蓄からメールのギャル
言葉にいたるまで、きちんとした取材や下調べをした結果であり、また萩原浩の趣味や得意な分野でもあるのだろう。それらのバックグラウンドがしっかりしている分、
物語に一層現実感や臨場感がもたらされ、知らない間に登場する人々に感情移入
して笑ってしまうのである。
作品ごとに異なるジャンルを開拓している幅広い“ひきだし”を持った萩原浩だが、
本書はデビュー作『オロロ畑でつかまえて』の原点に帰ったような、たっぷり笑える
萩原流ユーモアワールド全開の短編集である。