読書記録57

あるキング

あるキング

ある野球の天才バッターの、誕生から23歳までを綴った伝記小説。イジメにあったり、事件が起こってストレートにプロ野球の道に進めなかったり紆余曲折があるのは他の青春小説でもありがちなお話。
いつもの伊坂作品のように独特の浮遊感があったり、人を喰ったようなエピソードや
サプライズがあったりするわけでもない。最後に収斂するオチがあるわけでもない。
評価するのが非常に難しい作品ではある。
しかし、生々しい表現や言動はあるものの、物語の視点・語り手を一人称、二人称、
三人称と各章ごとに変える工夫が施されているし、3人の魔女が現れたり、額に硬球が当たった痕がある獣が出てきたり、極めつけは背番号5の謎の人物が登場して
きたりと、並みの青春伝記小説とは異なる伊坂幸太郎らしさはうかがえる。
また、比較的短い物語であるが、ページを捲るスピードがはかどるリーダビリティーを持っている。
本書は、本の帯にあるように伊坂幸太郎の「新たなるファンタジーワールド」であり、
『伊坂ブランド』で読ませる、ある種の「寓話」と言えなくもない。