読書記録58

オイアウエ漂流記

オイアウエ漂流記

本書は、’06年9月から’07年7月にわたって『週刊新潮』に長期連載された作品に大幅な加筆修正を行った小説である。
トンガ王国から飛び立った南国の小国のオンボロプロペラ機が、熱帯低気圧の暴風雨に襲われ南太平洋上に不時着・沈没してしまった。乗り合わせた人々は名もない無人島に漂着する。そこでのサバイバルが本書のメインストーリーだが、そこではまぎれもない萩原ワールドが展開される。
まず登場人物にしてからが、あるリゾート開発会社の部長、課長、主任、平社員とそのお得意様であるスポンサー企業の御曹司。さらに過激なマリンガーディアンの外国人。まだお互いに馴染めない新婚旅行のカップル。小学生と頭の中は太平洋戦争中の
84才のその祖父。この10人と、プロペラ機と運命を共にしてしまった機長の愛犬一匹ときている。
彼らの言動、たとえば無人島でも会社での序列で平社員の賢司がこき使われたり、
スポンサーへの接待根性が抜け切れなかったりと、まるで情けないがユーモラスだ。
この長い物語は、およそ人間が文明社会から隔絶された日常を、どう協力して食い
つないで生きてゆくかというあらゆるシチュエーションが詰め込まれている。
そして漂着して1日、2日、1週間、1ヶ月、2ヶ月・・と過ぎてゆくうちに出てくる、本音や本性、そし無人島協同生活の知恵といったものが独特の萩原節で累々と語られてゆく。
本書はユーモア小説というにはあまりにも命がけだが、サバイバル小説にしても
孤独感や悲壮感、絶望感、暗さはあまり感じられない。それは彼ら凸凹メンバーが、
人間が生きてゆくために精一杯奮闘している姿に、何かしら温かいものを感じるから
だろうと思う。